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1.RFマグネトロンスパッタ法を用いたAZO薄膜堆積の抵抗率分布の改善に関する研究

 近年、液晶パネルディスプレイやフラットパネルディスプレイの需要が高まっている中で、AZO(アルミドープ酸化亜鉛)薄膜は、現在液晶パネル等の透明導電膜として最も多く使用されているITO(スズドープ酸化インジウム)に代わる代替材料として注目されている。レアメタル材料であるインジウムよりも資源量が豊富であり、可視光領域において高透過率を有し、抵抗率が低い(~10-3Ωcm)ことから将来透明導電膜への応用が期待されている。しかし、RFマグネトロンスパッタ法導入による薄膜堆積において大面積利用を考えた際、抵抗率分布の不均一性が懸念される。本研究ではRFマグネトロンスパッタ法を用いてガラス基板上にAZO薄膜を堆積させる際、成膜法の変化や作製後のサンプルを処理することにより、改善を図ることを目的とする。下図にICP支援スパッタ法で作製したサンプルの抵抗率分布改善の結果を示す。

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Fig. ICP支援スパッタ法導入による抵抗率の径方向分布改善の効果(通常のスパッタ法との比較)

2.スマートウィンドウ(自動調光窓)の高性能化と可視光透過率向上に関する研究

 二酸化バナジウム(VO2)は, 68℃付近において急激な抵抗値の変化を示し, 絶縁体的な状態から金属的な状態へと転移(絶縁体-金属相転移, Insulator-Metal Transition: IMT)を示す化合物である. また, IMTによって赤外光領域の透過率も変化するため, 赤外光スイッチングにより自動的に赤外光透過率を調整するスマートウィンドウへの応用が期待されている. しかし, VO2をスマートウィンドウに応用した場合の可視光透過率が低いことが大きな課題として挙げられる. そこで, 本研究ではガラス上に良好な二酸化バナジウムを成長させるために導入している酸化亜鉛をナノロッド化し、バッファ層の結晶性を向上させることで二酸化バナジウム膜を薄くし、可視光透過率の向上を試みている。

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Fig.1 ガラス上VO2スマートウィンドウの積層構造
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Fig.2 120 nmのVO2薄膜(SiO2コート有)の赤外光スイッチング特性(ΔTsol~16%)

3. ポリイミド膜(厚さ10μm)を基板とするフレキシブルVO2薄膜の実現と曲げ特性評価

 耐熱性、絶縁性及び機械的特性に優れるポリイミド膜を作製し、その上へ結晶質VO2薄膜を堆積した。ポリイミド膜を石英基板から剥離することで極めて柔軟で大きく曲げることが可能なフレキシブルVO2シートが完成する。SEM観察によるクラック密度を基に曲げ耐性を評価している。

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Fig.1 フレキシブルVO2シートの写真
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Fig.2 繰り返し曲げ試験の結果

4. VO2プレーナー型デバイスの電気的スイッチングと自励発振現象

 VO2薄膜は電圧印加によって抵抗値が連続変化する自励発振現象を発現する。2023年度に京都大学との共同研究により100 nm膜厚のVO2薄膜上にTi/Au電極を微細加工し、10 μmギャップを形成して電圧印加を行い、数十kHz以上の自励発振を得た。この際、従前利用してきた直流電圧源に替えて正弦波交流を印加することで、発振開始を的確に捉えることができ、また素子の過電流による破壊も防げる利点があることがわかった。今後は、プレーナー型に加えて積層型素子も加えて研究を進める予定である。

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Fig.1 VO2プレーナー素子の発振測定
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Fig.2 プレーナーVO2素子の発振波形 (上:素子電圧, 下:素子電流)

5. 相変化GST膜をキャップしたVO2薄膜の電気的特性制御に関する研究

 VO2薄膜は作製後は温度上昇や下降によるIMTを発現するが、室温では元の絶縁体的な特性に復帰することからメモリー的には揮発性と言える。相変化膜であるアモルファスGSTは低温(~160℃)で結晶化し、その際に大きな体積収縮を示すことから、GSTをキャップしたVO2はGSTの低温アニールによる結晶化に伴いそのIMT特性を変調できる。サファイアc面上に成長したVO2の薄膜のRT特性はGSTアニールに伴い5℃程度低温シフトした。更に結晶化したGSTをレーザー照射により再アモルファス化することでRT特性を元に戻すことができると期待でき、実験を重ねている。

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Fig.1 キャップしたGST収縮歪によるVO2転移特性制御
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Fig.2 GSTアニール前後のXRDパターンの比較

6. VO2薄膜の結晶性向上とlarge domain成長に関する研究

 VO2はCTRサーミスタや光スイッチなどの小型化に適した材料であるが、小型化しても俊敏な動作を実現するには結晶性が非常に重要である。そこで我々は、反応性スパッタ法において基板バイアス印加法を用いることでAl2O3 (001)基板上VO2薄膜を再結晶化させることに成功し、結晶性向上を実現した。再結晶化したVO2薄膜の結晶粒は通常の結晶粒(数十nmサイズ程度)に比べて格段に大きい数十μmサイズの結晶粒が成長する。下図に再結晶化現象が生じたAl2O3 (001)基板上VO2薄膜のSEM像を示す。今後、結晶性向上を伴う再結晶化現象のメカニズムを解明することでVO2薄膜の工業的応用の広がりに貢献することを目指す。

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Fig.1 バイアス10 W印加で実現したLarge domain VO2結晶薄膜